さて先月、興味を持って即買いしたのはこちら。
「魔性の女挿絵集」。

東京の弥生美術館で同タイトルの特別展が今年の春から初夏にかけて行われ、その図録としても販売されていた一冊です。この頃は図録も一般図書扱いのものが増えてきました。足を運んだ展示であれば特別感が薄れて、うーんと思うのですが、行けなかった展示については嬉しい限りです。
さて雰囲気出るかもと、日が落ちてから電球のルームライトで光源を取ったら妖艶すぎました。とても同性を描いたものと思えません(笑)。

妖艶どころか背筋が涼しくなったり。
「玉藻の前」。(美福門院得子がモデル←鳥羽上皇の側室:本性は九尾の狐だったという挿絵)。

上、二枚の挿絵を描いたのは明治から昭和に存命だった橘小夢。絵師と言ったらいいのか画家と言ったらいいのか分かりませんが、なんと秋田県出身の方で、美郷町六郷の諏訪神社のあたりに暮らしていたこともあったとのこと。近所すぎる…のに何も知らない、これはいかん、とにかくどういう絵があるのか見てみたいと言うことで探してみたら、この一冊にたどりついたという流れです。あまり作品が残されていないので、小夢だけの画集と言うものは出版されていないよう。この本の中にあるものも「個人蔵」と記されているものが多いので、弥生美術館での貴重で大きな機会を逃した感満載の今日この頃です。六郷の資料館や県内の美術館にも所蔵されていたりするのでしょうか。
版画の展覧会に出品した後、内務省から発禁処分を受けた「水魔」という絵。

水魔にとりつかれて水死する女性がどうこうよりも、女性の表情や水の揺らめきから漂う水死の甘美そうな感覚に嘆息のため息ばかり。危険な絵だわ〜。
その他収録されているのは、よく耳にする画家では小村雪岱、高畠華宵、私の初見では水島爾保布、蕗谷虹児等々。挿絵集なので絵を寄せられた小説の書き手には泉鏡花、谷崎潤一郎、江戸川乱歩等。小説家名からも集められた挿絵がどういうものか雰囲気が漂いますね。美術館の展示でもある内容なので絵ばかりではなく、ところどころ西洋から受けた「運命の女」「宿命の女」という主題の影響などの考察も挿しこまれてあり、この濃密さを思うとどれだけ素晴らしい展示だったことかと口惜しさいやましです。この本に収められていない作品も数多くあったそうなので眺めれば眺めるほど、観に行けてたら何かが違っただろうな〜と。
こういう展示会は巡回しませんしね。ああ、残念。
いずれ東京に行く機会があったら、弥生美術館は必ず行こうと新しい目標を掲げながら、雨夜に背筋をすうすうさせつつも読むのがやめられない一冊でした。それにしても、本当にちょっと前の本て豪華な挿絵がつけられていたんですね。うらやましい。
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